研究概要 |
本年度は1,3-ジブロモ-1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチルシクロテトラシランを前駆体とするシリルビラジカルとシリルジアニオンを合成し、その構造と性質を検討した。 1,3-ジブロモ-1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチルシクロテトラシランをベンゼン中カリウムで還元し、この反応をESRで追跡すると、三つの常磁性化学種を経て、最終的に(trans-1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチル-1,3-シクロテトラシランジイル)ジカリウムが生成した。三番目の常磁性化学種はESRではサテライトを伴う二重線として観測され、二つの不対電子が相互作用したビラジカルであると考えられる。実際にこの化学種は赤色結晶として単離され、X線構造解析の結果、(1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチル-1,3-シクロテトラシランジイル)ビラジカルであることがわかった。このシクロテトラシラン環は完全な平面構造をとっており、また二つのシリルラジカル中心も平面構造をとっている。また二つのシリルラジカル中心の距離は2.796(3)Åであり、共有結合は形成していない。この結果はシリルビラジカルをESRで観測し、結晶として単離した初めての例である。また、このシリルビラジカルは結晶状態および溶液中でサーモクロミズムを示す。すなわち、室温では結晶およびその溶液は赤色であるが、77Kでは黄色に変化する。また、77KではビラジカルのESRシグナルが消失し、二つのシリルラジカル中心が共有結合を形成し、ビシクロ[1.1.0]テトラシランとなっていることを示唆する。 さらに、最終生成物である(trans-1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチル-1,3-シクロテトラシランジイル)ジカリウムも紫色の結晶として単離した。X線構造解析の結果、このシリルジアニオンはベンゼンと相互作用して一次元の超分子構造を形成していることがわかった。この超分子構造はこれまでにシリルアニオンの構造として報告されている単量体、二量体、四量体、六量体構造とは異なり、新しいタイプの構造である。
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