フッ素置換基は、フッ化物イオンとしての脱離能と共に、非共有電子対の供与によるα-カチオンの安定化能を有する。この両性質を利用して2つのフェネチル基を有するgem-ジフルオロエチレン1から[4]ヘリセンを合成した。すなわち、1を超強酸(FSO_3H・SbF_5)でプロトン化し、フッ素のα位にカチオンを二回発生させ、これらのカチオンを分子内の二つのアリール基でそれぞれ捕捉した。これにょり1から一挙に四環式化合物を得た後、脱水素を行って[4]ヘリセンへと誘導した。また、フッ素の特性を活用したジフルオロアルケン1の簡便な合成法の開発と、超強酸に代わる金属錯体での1のカチオン環化も併せて達成した。ベンジルアニオンによる4-フェニル-2-トリフルオロメチル-1-ブテン2のS_N2'反応を行い、ジフルオロアルケン1を効率良く合成することに成功した。ここでは、1-トリフルオロメチルビニル化合物のS_N2'反応を有効に使って、炭素鎖の伸長とジフルオロアルケン部の構築を行っている。さらに、カチオン性のパラジウム錯体がフルオロアルケンの活性化に有効であることを見出し、これにより1から2回の分子内Friedel-Crafts反応によって四環式縮合環化合物へ容易に導けることを示した。すなわち、(CF_3)_2CHOH中で1にPd(BF_4)_2(CH_3CN)_4を作用させると、カチオン環化と続いて起こるフッ化パラジウムの脱離によりフルオロアルケン部を再生し、ここから再び同様の環化が起こり、[4]ヘリンのポリドロ体を混合物として与える。これをPd(OH)_2-C存在下で加熱することにより脱水素し、[4]ヘリセンが得られる。 以上のように、ジフルオロアルケンのカチオン環化反応が超強酸だけでなく金属触媒でも行えることになり、強酸条件では不安定な基質にも適用でき、官能基を有するヘリセン類の合成も可能となる。
|