研究概要 |
元来極めて不安定な化学種である三重項カルベンが他の閉殻分子と同様に室温でも簡便に取り扱え、有機新素材として利用可能にすることを目的として、化学修飾による三重項多核芳香族カルベンの安定化を試みた。 安定三重項カルベンの基本骨格としてはビス[9-(10-フェニル)アントリル]カルベン骨格を用いた。このカルベンは4個のペリ位水素がカルベン中心を立体的に保護しているだけでなく、不対電子がアントリル基の共鳴効果によって熱力学的にも安定化され、更にフェニル基が10位からの反応を抑制しているため、室温脱気ベンゼン中では半減期40分の長寿命カルベンである。このカルベンは二次減衰を示すので、カルベン二量体が生成物であると考えられる。この二量化反応を完全に抑制できれば永続的に安定な三重項カルベンが合成できるものと考えられる。 1.先駆体ジアゾ化合物の合成:10位からの反応を完全に抑制する目的でフェニル基のオルト位にメチル基を有するカルベンの前駆体ビス{9-[10-(2,6-ジメチル-4-tert-ブチル)フェニル]アントリル}ジアゾメタンを合成した。 2.光分解反応生成物:上記ジアゾ化合物を室温脱気ベンゼン中光分解することによって得られた生成物はNMRでは同定できない複雑なものであった。しかし、質量分析からカルベンの二量体に近い分子量を持つ生成物が主であることが示された。 3.ESRスペクトルによる観測:77K、2MTHF中上記ジアゾ化合物の光分解を行ったところ、300Kまで観測できる安定な三重項カルベンが観測された。 4.カルベンの寿命測定:室温脱気ベンゼン中上記ジアゾ化合物のレーザー光分解は三重項カルベンを発生し、このカルベンの半減期が約2日もあることが示された。
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