1.塩基存在下、トリアリールビスマスジクロリドと水との反応により様々なアリール基を持つ高原子価ビスマス-オキソ化合物を合成し、それらの熱に対する安定性および熱分解の機構について詳細に検討した。その結果、アリール基の種類にかかわらず高原子価ビスマス-オキソ化合物は90℃に加熱することで速やかに熱分解を起こし、トリアリールビスムタンを主生成物とする混合物を与えることが明らかとなった。また、生成物解析の結果、ビスムタンとともにビアリール、ジアリールエーテル、アレーン、および難溶性のビスマス酸化物の生成が確認されたことから、熱分解は炭素-ビスマス結合解裂やアリールラジカルの発生を含む複雑な機構で進行すると考えられる。 2.上記熱分解で少量得られるビスマス酸化物のX線結晶構造解析を行い、この化合物がジアリールビスムチン酸無水物の四核クラスターであることを明らかにした。このタイプの高原子価ビスマス-酸素錯体の構造解析はこれまで報告されておらず、今回が初めての例である。ビスムチン酸の生成は、先の熱分解において5価から3価への還元経路の他に5価ビスマスの不均化という分解経路が存在することを示している。 3.高原子価ビスマス-オキソ錯体はアルコールをカルボニル化合物へと極めて迅速に酸化するが、重水素同位体効果の実験から、反応の律速段階がアルコキシビスマス中間体からの水素引き抜き過程にあることを明らかにした。また、この知見を基に、立体・電子効果を積極的に取り入れた新規高原子価有機ビスマス酸化剤を開発した。
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