周期表第15族第6周期に位置するビスマスは、低い電気陰性度および大きな軌道半径を有しており、高原子価ビスマスの高い酸化能やビスムトニオ基の高い脱離能を考慮した場合、高原子価有機ビスマス-酸素錯体は極めて有望な酸化剤および酸素原子添加試剤となりうる。本課題では様々な置換基を有するビスムタンオキシド、ビスムチン酸、およびビスムチン酸誘導体の合成法を確立し、その構造と物性を明らかにしたうえで、これらの高原子価有機ビスマス-酸素錯体を用いた有用な酸化反応体系の確立を目的として研究を行った。14年度は、申請者らが独自に開発した合成法を用いて様々なトリアリールビスムタンオキシドを合成し、アリール基の置換基の立体効果や電子効果が化合物の構造、熱的な安定性、および反応性にどのような影響を与えるのか明らかにした。その過程で、ビスムタンオキシドが置換基の種類により二量体、水和体、多量体など様々な形態で存在することを見出したほか、オキシドの熱分解の際に得られるジアリールビスムチン酸無水物の構造解析に初めて成功した。また、オルト位に置換基を導入することでビスムタンオキシドの酸化能が著しく向上することを見出した。15年度は、高原子価ビスマスの高い酸化能をより幅広く利用するためトリアリールビスマスジクロリド/DBUを用いる酸化反応系を新たに開発するとともに、その反応機構について詳細に検討し、反応速度に対する置換基の電子効果および立体効果を明らかにした。ここで得られた知見を基に新規高原子価有機ビスマス酸化剤を開発し、種々の第一級および第二級アルコールが、穏和な条件下で対応するカルボニル化合物へ効率よく酸化されることを確認した。これらの反応性は軽元素類縁体には見られないものであり、高原子価ビスマスの持つ高い潜在能力を合成化学の場で発揮することに成功した。
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