研究概要 |
フォトクロミズムは溶液や分散状態でおこる場合が多く、取り扱いやすさや耐久性に優れた結晶・固体状態での例は少ない。シッフ塩基類には容易に調製・単離されるという合成上の利点がある反面、フォトクロミズムの現象を発現しないものもあるという物性予測の困難さがあった。フォトクロミックなシッフ塩基類結晶を得るための新たな方法として、2,6-ジアルキルアニリン類を原料とすることを着想して研究を進めていたが、結晶構造-光物性相関についての知見を積み重ねることができた。 このアニリン類から得られるシッフ塩基では、アルキル基とアゾメチン水素との間に立体反発が生じ、分子は「ねじれた」状態に規定される。15種のサリチルアルデヒドと6種のアニリンから65種のシッフ塩基類結晶を室温で単離し、これらを研究対象とした。無置換のアニリンから得られた誘導体ではフォトクロミズムを示したのは13種中2種のみであったのに対して、2,6-ジアルキルアニリン類から得られた誘導体では52種中42種がフォトクロミックであった。その中でも、2,6-ジイソプロピルアニリンを用いると、15種中14種がフォトクロミズムを示すという非常に良好な結果を与えた。これらの化合物のうち単結晶が得られた化合物についてはX線回折法による構造解析を行った。その結果把握された単分子構造は、二つの芳香環の間の二面角が65〜90°の範囲である「ねじれた」構造をとっており、初期の着想が妥当であったことを示した。 この結果から、「2,6-ジアルキル基の導入」がフォトクロミック結晶を得るための有効な手法であることが示された。このフォトクロミック結晶の系統的な形成法を開発したことにより、これまで明快な説明が難しいとされたN-サリチリデンアニリン類のフォトクロミズム特性と結晶構造との相関を考察することが可能となった。
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