研究概要 |
サリチリデンアニリン類のフォトクロミズム特性は結晶構造に大きく依存する。結晶多形を示すサリチリデンアニリン類では、共通した構造式を持つ分子から形成されているにも関わらず、それぞれの結晶が示すフォトクロミズム特性は大きく異なることがわかっており、このことは単分子系では実現できない結晶物性の発現を意味する。この発想から、結晶化による配座異性体の固定で結晶多形を形成させ、多形同士でのフォトクロミズムの比較を試みたところ、4,4'-メチレンビス(サリチリデン-2,6-ジイソプロピルアニリン)において多形結晶が得られた。両結晶は類似の光着色挙動を示したが、その光着色種の熱安定性は異なっていた。X線結晶構造解析により両結晶の結晶構造が明らかとなったことで、フォトクロミズム特性との比較検討が可能となり、この物性の違いは結晶中での分子の形状と配向に由来していることがはっきりした。 これまでの知見を総合し、新規な超分子プロトン移動系の構築を目指した研究を進めた。トンネル型ゲストルーム構造を形成する各種のホスト分子の設計・合成として、メソポーラスシリカをシッフ塩基類と複合化させることを発想し、安定に包接されかつ良好な光着色を示すハイブリッド系を作り出すところまで到達した。このようなゲストルームで機能するプロトン移動系有機色素として、ヒドラジド類とニトロベンジリデン誘導体に着目し、それらの反応性と物性の検討を行った。特に、o-ニトロベンジリデン-3-アミノ-5-メチルピラゾールの結晶は太陽光のもとで著しく光着色し、生成した光着色体は非常に安定で退色しない。この反応はニトロ基による光励起水素引き抜き反応により進行し、o-ニトロソベンズアミドが生成したことによるものであることが、各種の分光学的な実験結果と分子軌道計算から明らかとされた。
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