研究概要 |
本研究では、架橋芳香族化合物に関する研究の一環として、系統的な研究が殆どなされていない14π系架橋[14]アヌレンである10b,10c-ジヒドロピレン環を構成単位とするシクロファン類(10b,10c-ジヒドロピレノファン)に着目し、これらの実用的な一般性の高い合成法を開発し、構造と機能性との相関関係を調べることを目的とするものである。本年度は以下の研究実績を上げることができた。 1.合成ルートの開発 本研究では出発原料となる10b,10c-ジヒドロピレン誘導体の合成が重要なKey stepとなるが、本申請者が本研究に着手する以前にメタシクロファン系化合物合成の際に開発した手法を用いることにより、実用的な一般性の高い合成法を開発した。例えば、ビスブロモメチルベンゼンとビスメルカプトメチルベンゼンとのカップリング反応を行い、二つの異性体、syn-体及びanti-体を合成する。さらにsyn-体及びanti-体を出発原料として、ビスジチア[3.3]シクロファンへと変換し、Wittig転位、メチル化ついでホフマン脱離を行うことによりビス[2.2]メタシクロファン-1,9-ジエン類および原子価異性体である10b,10c-ジヒドロピレノファンの合成に成功した。 2.構造・物性に関する研究に関する研究 架橋した10b,10c-ジヒドロピレノファンは従来の小環状シクロファンの場合に比較して大きなπ電子系の広がりを持ち、電荷移動相互作用、スルースペース渡環相互作用の増大及び他の原子、分子、官能基との相互作用(カチオン-π相互作用、C-H-π相互作用)の増大が予想される。本相互作用を核磁気共鳴スペクトル、可視紫外吸収スペクトルおよびX線構造解析等を用いて、溶液中・結晶状態の両方から調べ、分子素子としての応用への基礎的な情報を得ることができた。 3.光機能性関する研究 10b,10c-ジメチル-10b,10c-ジヒドロピレン環の8,16-ジメチル[2.2]メタシクロファン-1,9-ジエンへの原子価互変異性化によるホトクロミズム能について系統的に調べ、π-共役系を光でコントロールするシステムの構築に成功した。
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