研究概要 |
細胞表層に存在する糖鎖の非還元末端に存在するシアル酸(Neu5Ac)ならびにその類縁体を含む糖鎖は、様々な細胞間相互作用に関与する重要な分子で、その機能解明に興味が集まっている。機能解明には、先ず、糖鎖と受容体(糖タンパク質、酵素、レクチン、糖脂質)との複合状態における溶液中での糖鎖の立体配座・動態挙動の解析が必要不可欠であり、それには^<13>C標識糖を用いるのが効果的である。本研究は、この分野の多くの研究者が^<13>C標識糖を広く利用出来るよう糖鎖中の重要構成単糖の効率的^<13>C標識化法を確立し、その有効性を明らかにするとともに、それらを用いたNMR構造解析法の開発を目的とし研究を行った。14年度には^<13>C標識化[3-^<13>C],[9-^<13>C]および[3,9-^<13>C]Neu5Acならびに同KDN,D-[1-^<13>C]およびD-[6-^<13>C]Galactose,L-[6-^<13>C]Fucoseの効率的合成ルートを確立するとともに、1ヶ所ずつ標識化した等量混合物が2ヶ所同時に標識化したものと、NMR上同等の標識効果を示すことを明らかとし、標識化合物の混合利用法の有効性を確認した。これら研究結果を踏まえ、15年度は、下記の項目について研究を行い、成果を得た。 (1)未完であった、D-[1-^<13>C]Mannose,N-Acetyl-D-[6-^<13>C]Glucosamine、L-[1-^<13>C]Fucoseの効率的標識化法を確立した。これにより糖鎖を構成する重要単糖全ての効率的標識化法を研究代表者が確立したことになる。 (2)得られた知見をもとに標識糖を量産し、さらに糖鎖モデルとして有効な^<13>C標識化Neu5Acα(2→3)Gal 2糖の合成を検討した。その結果、理想的な位置を標識化した4種の標識化2糖の効率的合成に成功し、特定の標識化2糖を2種類用いることで^<13>Cから^1Hへの磁化移動により、複合状態における糖鎖の構造解析が行えることを確認した。 (3)(1)(2)を踏まえ、応用研究として、炎症や癌の転移などの生命現象に関与しているSialyl Le^X類似構造を有し、受容タンパクと高い結合能を有するSialyl Le^x mimeticsの効率的標識化と、複合状態における構造解析について検討した。その結果、^<13>C標識化Sialyl Le^x mimeticsの効率的合成を達成するとともに、現在、受容タンパク質との複合状態における糖鎖の構造解析のための新規NMR測定法について研究を行っている。 以上、当初の研究計画をほぼ100%達成した。得られた成果を、国際欧文誌へ投稿すべく準備している。
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