メスバウアー分光法は、他の分光法と異なり固体状態のものにのみ感度をもつ。この特性を利用して液体と固体が共存する系において、溶液と固体表面吸着の間に平衡が存在するような化学種の固体表面吸着側のみの状態分析が可能であると考えられる。しかしこのような試みは実際上行われていない。本研究では、吸着平衡系として水溶液とイオン交換樹脂表面を選択し、鉄化合物が水溶液として存在する際の共存するイオン交換樹脂表面上での鉄化学種のキャラクタリゼーションを試みた。昨年度は陽イオン交換樹脂を用いたが、今年度は陰イオン交換樹脂について検討を行った。鉄(III)は塩化物イオン濃度が高いときにFeCl_4^-を安定に形成するため、陰イオン交換樹脂に吸着させることが出来る。本研究では強塩基性陰イオン交換樹脂としてAmberlite IRA-900を、弱塩基性陰イオン交換樹脂としてIRA-93を使用した。 鉄はメスバウアー同位体である^<57>Fe濃縮同位体金属を希塩酸に十分長い時間をかけて溶解してFe(III)の水溶液を得た。これを6M塩酸溶液とし、イオン交換樹脂にバッチ法で吸着させた。アクリル製の試料容器を制作し、塩酸と鉄を吸着させたイオン交換樹脂が共存したまま室温でメスバウアースペクトルを測定した。強塩基性イオン交換樹脂の試料では7日間の測定時間であきらかなピークは認められなかった。これに対して弱塩基性イオン交換樹脂の試料では常磁性鉄(III)のシングレットピークが現れ、イオン交換樹脂の性質によって大きく異なった結果がえられた。これは陽イオン交換樹脂の場合と同様な結果であり、本研究の成果として初めて得られたもので、吸着イオン種の第一配位圏の樹脂による相違によりメスバウアー無反跳分率に大きな違いが現れ、固液共存系での表面吸着種の状態分析にメスバウアー分光法が非常に有力であることを示すことができた。
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