研究概要 |
[Cu(I)(dmp)_2]^+は室温で熱的平衡にある2つのMLCT状態から発光していることが知られているが、それらの帰属については未だ結論が出ていなかった。また本研究で[Pt(O)(binap)_2]錯体について発光の温度変化を観測した結束、Cu(I)錯体と同様に熱的平衡にある2つのMLCT状態から発光していることが明らかになった。室温での発光の時間分解測定を行ったところ、ピコ秒の寿命を持つ短寿命成分とマイクロ秒程度の長寿命成分があることを観測できた。輻射速度の大きさなどから前者は一重項MLCTからの蛍光であり、後者は三重項MLCTと熱平衡状態にある一重項MLCからの発光(遅延蛍光)であると結論した。一重項MLCTの寿命は、Cu(I)錯体で15ピコ秒、Pt(O)錯体で3.2ピコ秒であり、Ru(II)錯体での寿命50フェムト秒よりも著しく長い。低温(<173K)では、遅延蛍光の強度が弱くなりMLCTからのリン光が蛍光の低エネルギー側に観測された。これらの蛍光は大きなストークスシフトを伴っており、励起状態での大きな構造変化が生じていることを示唆する。 本研究において、これらのd^<10>型金属錯体のMLCTの光物性は、Ru(II),Os(II),Ir(III)などの典型的な発光性の正八面体配位構造を有するd^6型金属錯体のものとは著しく異なっていることが明らかになった。 密度汎関数理論による解析の結果、これらのd^<10>型金属錯体での基底一重項状態は擬四面体構造であるがMLCTでは平面型構造へと歪み、HOMOとHOMO-1とが4500cm^<-1>以上のエネルギー分裂を生じること、そしてこの大きな分裂がd電子特有の大きなスピン軌道相互併用による異なるスピン状態間の強い混食を妨げるために、蛍光寿命が長くなり、またリン光輻射が遅くなることを理論的に明らかにした。
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