不斉酸化反応は、学術・応用両面にわたり重要な化学プロセスであるが、効率性・選択性に富んだ鉄錯体触媒の開発は、環境負荷や経費の削減など環境調和型クリーンプロセスの構築に重要である。本基盤研究では、研究代表者らが新たに開発した酸素架橋型二核鉄錯体が、アルカンモノオキシゲナーゼなど生体系非ヘム型酵素の活性部位と類似した構造をもつことに注目して、金属近傍への不斉因子や立体因子の的確な導入により錯体構造の揺らぎをなくし、二核活性部位の活性化を図ったものである。研究代表者らが新たに開発した、2つのエチレンジアミン窒素と2つのアミド酸素を配位座とした直線状N2O2型光学活性4座配位子を用いて調整した複核鉄(III)錯体を触媒として過酸化水素による各種スルフィドの酸化反応を詳細に検討したところ、2級アミド型エチレンジアミン配位子やアキラルな3級アミド型配位子に比べて3級アミド型不斉配位子を用いたときに非常に大きく触媒効果が向上する事を見いだした。これら配位子からなる金属錯体の構造を精密に検討するために、様々な第1遷移金属イオンからなる単核錯体を新たに合成したところ、2級アミド型不斉配位子の金属錯体と、3級アミド型不斉配位子の金属錯体とでは、金属錯体の絶対配置が完全に逆転していることを見いだした。さらに、2級アミド型不斉配位子の金属錯体は、その絶対配置が対アニオンにより影響されることも見いだした。また、3級アミド型不斉配位子の金属錯体では、配位子の不斉置換基が、酸化反応の反応場を覆うように配置されるため、反応場が、2級アミド型のものに比べて疎水的になっていると推察できる。この様に、金属錯体の立体構造が触媒効率に大きく影響を与えることが示唆された。
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