研究課題
金属イオンとπ共役系配位子より構築される有機金属錯体集積体はCT錯体、電気伝導・光学物性化合物などとして興味が持たれるのみならず新規触媒モデルとして注目される化合物群の1つであり、合目的にこれらを構築するためにはその最小単位となるフラグメント錯体の合成法を確立することが必要不可欠である。昨年度はフラグメント錯体として近接した分子内π-π相互作用を有する[2.2]パラシクロファン(pcp)を配位子とする11種のRhおよびIr錯体の合成法ならび構造化学的特徴などを報告した。本年度はさらに新しいフラグメント錯体を構築する目的で芳香族環が柔軟に連結されたp-およびm-ターフェニル(tp)を配位子とする新規な2種のIr錯体を合成しその分子構造および性質を明らかにした。まずジクロロメタン溶液中において前者のp-tp配位子と[Ir(cod)_2]BF_4を反応させたところ、二核Ir(I)錯体{[Ir_2(p-tp)(cod)_2](BF_4)_2・2CH_2Cl_2}_3(cod=1,5-シクロオクタジエン)(1・2CH_2Cl_2)が生成し、一方後者のm-tp配位子と[Ir(η^5-C_5Me_5)(Me_2CO)_3]^<3+>をアセトン溶液中において反応させたところ、単核Ir(III)錯体[Ir(m-tp)(η^5-C_5Me_5)](BF_4)_2(2)が生成することを見出した。X線構造解析の結果、錯体1・2CH_2Cl_2は2つのIr原子がη^5-形式でp-tp配位子の両端のベンゼン環の上下より配位した二核構造を、また錯体2はCp^*基に支持された1つのIr原子がm-tp配位子の端のベンゼン環にη^5-形式で配位した構造を有しており、いずれもtp配位子との始めての金属錯体であり、^1H NMR法を用いてその溶液内構造ならびに生成過程を明らかにしたことは先のRh-およびIr-pcp錯体の知見とあわせて有用なフラグメント錯体となりうることが期待される。
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