前年度までに主として新規な合成法(タンデムクライゼン転位及び共有結合法)による[2]ロタキサンという超分子の構築とその機能について検討し、構成している分子間のエネルギー移動を利用するセンシング機能について明らかにしてきた。今年度は、さらに合成を推進して、新たに、世界的にも例の少ない[1]ロタキサン、[3]ロタキサンの全く新しい合成法の開発に取り組み、その合成に成功するとともに、興味深い分子認識挙動を明らかにすることができた、まず、軸分子と大環状ローター分子が結合した[1]ロタキサンを、我々が開発した共有結合法を用いて、初めて合成に成功し、その結果はアメリカ化学会の雑誌であるJ.Am.Chem.Soc.のCommunicationsに掲載され、高い評価を得ることができた。これは合成の新規さだけでなく、この分子が発現する機能、すなわち軸分子と大環状ローター分子とが形成する3次元構造(スーパークリプタンド構造と我々は呼んでいる。)が精密な分子認識場となるという、構造的にも、機能的にも極めて興味深い結果を得たことによるものである。ちなみに、我々の合成した超分子はリチウムイオンに特異的な応答性を示すものであった。今後構造を変換することにより、種々のゲスト分子に対して特異性を示す超分子の設計・合成へつながっていくであろうことを明らかにすることができた。2つ目の成果は、[3]ロタキサンをも我々の方法を駆使すれば構築できることを示すことができたことである。[3]ロタキサンとは軸分子を2つの大環状ローター分子が貫通しており、2つのローター分子が常にごく近傍に存在する超分子である。この超分子の合成も従来極めて合成法が複雑であり、困難であったが、我々の共有結合を経由する方法により、容易に得ることができるようになった。この[3]ロタキサンはそれぞれの大環状ローター分子と軸分子との間で2分子のリチウムイオンを捕捉すること、2つの大環状ローター分子と軸分子との協同的な作用により、大きなイオン径を持つセシウムイオンを1:1で取り込むこと(これもスーパークリプタンド構造による分子認識と考えられる)を見出し、この研究成果についても、イギリス化学会のChem.Commun.に掲載され、今後、種々の機能を付与した超分子構築へ向けての指針を得ることができた。このように、[2]ロタキサンの新規合成に始まった研究は[1]及び[3]ロタキサン等への新たな超分子開発に結びつけることができ、今後ナノテクノロジーにおけるボトムアップによるナノ分子材料構築へ向けて、重要な設計指針を得ることができたと考えている。我々の開発した新たな方法論(タンデムクライゼン転位及び共有結合経由の超分子合成法)により、目指したスーパークリプタンド構造体の構築のみならず種々の周辺研究の活性化を行うことができたと考えている。
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