有機超伝導体の相転移前後での電子状態の変化を検討するために、超伝導転移温度まで、超高分解能光電子分光器の試料ホルダーの冷却を試みたが、熱伝導性が十分でなくまた熱シールドも不完全であったため、試料ホルダー付近の改造を行った。この改造により、試料ホルダーの台座部分では10K以下に冷却が可能となったがそこで、現在より冷却効率を高めた熱シールドを設計中である。そこで、本研究では分子導線として有効と考えられている直鎖状炭素分子カルビンと、これまでには、超伝導転移は報告されていないが、電荷移動によって超伝導転移を起こす可能性のある金属内包フラーレン類(Tm@C_<82>の三種類の異性体、及びPr@C_<82>)の電子状態を超高分解能光電子分光法で明らかにすることとした。 カルビンの電子状態は1次元量子井戸として記述できる系であること、また、鎖長が長くなるにつれて最高被占準位が不安定化することを明らかにした。Tm@C_<82>では、いずれの異性体でも、Tm原子からフラーレンケージに2個の電子が移動していること、π電子の電子状態は異性体間で大きな違いがあること、σ電子の電子状態は異性体間に余り大きな違いはないことを明らかにした。Pr@C_<82>は金属原子からフラーレンケージへ3個の電子が移動している系であるが、通常C_<82>ケージで3個の電子が移動している系では、C_2_v対称性を持っている異性体が主であり今回測定したPr@C_<82>はマイナーアイソマーのC_s対称のものであった。C_s対称性のPr@C_<82>の光電子スペクトルはメジャーアイソマーのものとは大きく異なっており、フェルミレベル直下にある電子移動に起因する構造がはっきりとは観測されず、Tm@C_<82>の場合と同様ケージ構造に電子状態が左右されていることが明らかになった。
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