研究課題
基盤研究(C)
1.ハロゲン置換基を持つドナーを用いたπ-d相互作用系(EDO-TTFBr_2)_2FeCl_4を開発し、その物性を詳細に検討した。室温のESRスペクトルではπ電子系とd電子系に由来するシグナルが分離されて観測されたが、温度低下とともにこれらのシグナルは融合し、π-d相互作用の存在を示している。一方高圧下磁気抵抗測定の結果では、磁場を磁化容易軸方向に印加したときに磁気抵抗に二段階の不連続な上昇が見出された。これはπ電子系とd電子系それぞれのスピンフロップ転移に相当している。ゼロ磁場下ではフラストレートした磁気構造によりπ電子系のSDW状態が乱れているが、まずπ電子系がスピンフロップすることでフラストレーションの影響がなくなりSDW状態が長距離に成長し、さらにd電子系がスピンフロップするとこのSDW状態がπ-d相互作用により安定化することでいずれも抵抗が上昇すると解釈できる。2.TTP系ドナーBDH-TTPと繊維金属錯体錯体[M(isoq)_2(NCS)_4](M=Cr,Fe;isoq=isoquinoline)からなる分子性弱強磁性体の磁性について詳細に検討した。Cr塩の磁気転移温度の圧力依存性は既知の磁性体のなかでも最大の部類に属している。残留磁化の圧力依存性より、Cr塩では[M(isoq)_2(NCS)_4]錯体の単一イオン異方性、Fe塩ではDzyaloshinski-Moriya相互作用をそれぞれ主要因として傾角スピン構造を形成していることを見出した。さらにCr塩について分子間交換相互作用の圧力依存性を見積もった。π電子系と、d電子系との間に存在する三種類の交換相互作用のうち、d電子系間の交換相互作用の圧力依存性がもっとも大きい。これは分子間S...S接触の温度変化が金属錯体間において最も顕著であることと対応している。
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