研究概要 |
本研究では,ヒスチジンを含んだ4種のテトラペプチド(GHGH, RHGH, RGHK, RGHH)の銅(II)錯体を合成し,これらの錯体とDNAとの結合構造をDNAファイバーを用いたESRスペクトルから,またこれらの錯体による酸化的DNA切断反応をアガロースゲル電気泳動により解析した。これらの錯体の内,RGHKとRGHHは単核錯体を形成するが,GHGHとRHGHは中性付近のpH領域では二核錯体を形成することが低温溶液の3重項ESRスペクトルとESI-MSから明らかにされた。ΔM=1の遷移に観測されるゼロ磁場分裂の大きさから,二核錯体内の銅(II)イオン間の距離は約5.8Åと見積もられ,分子モデリングと力場計算による構造最適化により,二核錯体はC-末端のヒスチジンのイミダゾールによって架橋された構造であると推定された。また,単核錯体となるRGHKとRGHHの銅(II)錯体はアスコルビン酸と過酸化水素の存在下でDNAを切断するが二核錯体を形成するGHGHとRHGHの錯体はアスコルビン酸のみで切断反応が進行する。これらの二核錯体による酸化的切断はエタノールによっては阻害されず,カタラーゼによって強く抑制されたことから,活性酸素種はヒドロキシラジカルではなく,ペルオキシドが関与しているものと推定され,これらの二核錯体のSOD活性との関連が明らかになった。これらの二核錯体の多くはDNA上では単核錯体に解離しGHGやGHKと類似した配向性を示すが,一部二核構造を維持して結合していることから,DNA上で配位子の再配列が起こる遷移状態でアスコルビン酸により銅が還元され,DNAの切断が進行しているものと推定された。以上の成果の一部は第51回錯体化学討論会および第10回生医化学ESR分光学国際会議において発表した。
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