研究概要 |
河口域底質中では嫌気性の硫酸還元菌の働きにより、硫酸イオンが還元されて発生した中間酸化状態の硫黄化学種が底質中の鉄化合物や水中の鉄イオンと反応し、硫化鉄(FeS)やパイライト(FeS_2)が生成されると考えられる。しかし、パイライトは一般に高温・高圧下で生成されるとされており、河口域のような穏和な条件下での生成メカニズムは、まだよく分かっていない。そこで本研究では、河口域底質中において、硫酸還元菌が鉄-硫黄系の反応機構にどのように関与しているかを解明するために種々の検討を行った。 まず第一に、多摩川河口域の一定深さごとの底質中の生菌数を、間接計数法により計数し、メスバウアー分光法で定量したパイライト量の分布と比較したところ、その分布がよく一致した。次に、多摩川河口域底質中から単離した硫酸還元菌(Desulfovibrio sp.)を、硫化鉄生成に必要なFe^<2+>イオン(40ppm,80ppm,200ppmの3種類の濃度を設定)とSO_4^<2->イオンを含む培地中で嫌気的条件下、30℃で一定期間培養し、生成物を遠心分離してメスバウアー測定を行った。その結果、通常の硫酸還元菌培養に用いられる鉄濃度40ppmで培養したものは、培養1〜2日目で黒沈を生じ、メスバウアースペクトルはピロータイト(Fe_<1-x>S)に似たセクステットを示した。3日目にはダブレットが現れて、培養日数が進むに連れて次第に突出してきた。2倍の鉄濃度80ppmでは2〜3日目に初めて黒沈を生成し、ダブレットが現れるにも30日を要した。5倍の鉄濃度200ppmでは最初に白沈が見られるが3日目以降に黒沈を生成し、30日目でもピロータイト様のセクステットの重なりしか観測されなかった。このことから、培養する際の鉄濃度が生成物の状態変化に影響することが分かり、単に還元の過程で生成される硫黄化学種と鉄(II)が反応する以上の、複雑な反応が起っていることが推測された。
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