研究概要 |
本研究では、河口域底質中において、硫酸還元菌が鉄-硫黄系の反応機構にどのように関与しているかを解明するために種々の検討を行った。まず第一に、多摩川河口域を中心に各地で採取した底質中の硫酸還元菌とパイライト(FeS_2)の垂直分布の検討を行った。パイライトの検出には、非破壊で鉄の化学状態の分析ができるメスバウアー分光法を用い、硫酸還元菌の生菌数の測定には、寒天培地を利用した間接計数法を用いた。多摩川に比べて人為起源物質の汚染負荷が高いと考えられる東京都墨田区の北十間川や、ラムサール条約登録地で、東京湾内でも自然が保護されている谷津干潟においても、同様の検討を行った。その結果、底質中の一定深さごとの生菌数と、パイライト量の分布がよく一致することがわかった。 また、多摩川河口域底質中から単離した硫酸還元菌(Desulfovibrio sp.)を、硫化鉄生成に必要なFe^<2+>イオン(40ppm,80ppm,200ppmの3種類の濃度を設定)とSO_4^<2->イオンを含む培地中で嫌気的条件下、30℃にて培養実験を行った。培養期間がそれぞれ数日〜420日間の各段階で、培養液中に生成した沈澱を遠心分離後、凍結して生物活性を止めた。この固体試料を、空気を通さないパウチ袋に密封し、液体窒素温度における^<57>Feメスバウアースペクトルを測定した。その結果、培養する際の鉄濃度が生成物の状態変化に影響することが分かり、単に還元の過程で生成される硫黄化学種とFe^<2+>が反応する以上の、複雑な反応が起こっていることが推測された。また、XAFS(X線吸収微細構造)法により鉄の第1配位原子の特定を行った結果、反応の初期には酸素配位であった鉄が、反応の進行ともに硫黄配位(硫化物)になったことが明らかとなった。一方、無菌的に生成した硫化鉄は、これらの生成物とは異なるスペクトルを示し、底質中のパイライト生成反応に硫酸還元菌が関与していることが確認された。
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