環境水中に存在すると考えられる種々の重金属イオンのうち、二価が普通のコバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、鉛および三価の鉄について、TOMA^+(トリオクチルメチルアンモニウムイオン)を用いてEDTA錯体のイオン対抽出挙動を検討した。二価金属では、pH4〜11付近で主に生成する[M(edta)]が、それ以上の強アルカリ性で加水分解した混合配位子錯体[M(edta)(OH)]が抽出されることがわかり、それぞれの金属・錯体の抽出定数を決定した。[M(edta)]の抽出定数には金属による違いはイオン半径の大きな鉛を除いてほとんどなく、EDTA錯体の生成定数との相関も見られない。[M(edta)(OH)]の抽出定数は、金属により対数値で1単位ほどの違いがあったが、イオン半径や加水分解定数との相関はなかった。しかし、いずれの金属でも[M(edta)]と[M(edta)(OH)]の抽出性の差は小さく、加水分解による分配比の増加は対数値で1桁以内であった。 鉄(III)はこれらとは非常に異なった挙動を示した。すなわち、水中で加水分解が起こるpH7付近で鉄(III)の分配比は対数値で2桁以上増加する現象が認められた。鉄濃度依存性の実験より、これは加水分解に伴い二量体錯体[Fe_2(edta)_2(OH)_2]が抽出されるためであることがわかった。通常の水溶液中でこのようなヒドロキソ混合配位子錯体の二量体化は知られておらず、抽出に伴う特異的反応である。 以上の結果より、二価金属と三価の鉄では適当なpHを選ぶことにより抽出による相互分離の可能性はあるが、二価金属どうしの分離は困難であることが示唆される。しかしイオン対クロマトグラフィーによれば、アルカリ性条件下では各金属の分離能がかなり向上すると考えられる。
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