鉄(III)-EDTA錯体のTOMA^+(トリオクチルメチルアンモニウムイオン)とのイオン対抽出では、錯体の加水分解が起こるpH7付近で鉄(III)の分配比は対数値で2桁以上増加する現象が認められ、これは加水分解に伴い二量体錯体[Fe_2(edta)_2(OH)_2]^<4->となる抽出に伴う特異的反応であることが示された。これが鉄(III)に特異な挙動か他の3価金属でも同様の挙動が起きるかを検討するため、アルミニウム(III)、ガリウム(III)、インジウム(III)、コバルト(III)およびランタノイド(III)-EDTA錯体([M(edta)]^-)塩を合成し、イオン対抽出挙動を検討した。 ガリウム(III)とコバルト(III)を除く3価金属では、通常の錯体[M(edta)]^-とともに単量体の加水分解錯体[M(edta)(OH)]^<2->が抽出されたが、二量体化のような特異な現象は示さなかった。ガリウム(III)は水和金属イオンの加水分解がきわめて起きやすく、他の金属で錯体の加水分解が起きるアルカリ性ではEDTA錯体が解離するため抽出されなくなった。コバルト(III)は、加水分解にともない塩化物イオンのような共存する他の配位子との混合配位子錯体の生成が起き、これが抽出されるが二量体化は観測されなかった。コバルト(III)で水分子の付加した[Co(edta)(OH_2)]^-を合成し検討したが、上述のような混合配位子錯体の生成のため二量体化は観測されなかった。 以上の結果から、抽出に伴う加水分解錯体の二量体化は鉄(III)に特有の現象と考えられる。もともとの鉄(III)-EDTA錯体は、水中ではEDTAの全ての配位座が配位しているわけではなく容易に加水分解が起きやすいため、二量体化も起きやすいと考えられる。
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