昨年度は、エマルションの電極反応のモデルとして、水中に置かれた電極上に単一油滴を乗せた系の電気化学データを取得した。本年度は、その結果をエマルションの油水界面で生じるイオンの移動に応用した。それらの結果を、昨年度の成果を含めて、9報の論文に報告した。論文(4)では、水中に分散した油滴のエマルションに電位を印加すると、油滴中に存在する酸化還元物質が対イオンの移動を伴って電極反応し、同時に油滴が合一した。また、電位を印加したときの油滴と電極との間の接触角度の変化を顕微鏡により観察し、界面張力の変化から油滴|油滴の間の相互作用を議論した。ポリスチレンラテックスを安定な界面をもつ油滴と考え、論文(1)では、酸化還元物質であるフェロセンを含んだラテックスを合成し、論文(3)では、その酸化還元反応が局所的にしか起こらないことを示した。論文(2)では酸化還元系をポリアニリンに変え、膜における反応と異なって、ラテックスの反応が不可逆になることを示した。論文(5)では、油|水界面を金属|溶液界面に展開し、銀のナノ粒子の溶液における分散状態と電極反応を議論した。論文(6)では、ナノメートルの大きさに微小化された界面を扱い、一酸化窒素が生体系の膜スケールで生じる現象の基礎的データを得た。鉄ポルフィリンを用いた電極反応による一酸化窒素の生成過程がほぼ解明した。鉄ポルフィリンに亜硝酸イオンが錯体化し、その還元によって一酸化窒素を含む錯体になる。それを酸化すると一酸化窒素が遊離した。そこにアルゴンガスを吹き込むと、一酸化窒素ガスが発生することを確かめた。現在、油|水界面系およびエマルションの系に応用している最中である。
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