研究概要 |
前年度の研究により,非常に疎水性なredox種を油相に用いた場合,水相側のredox種との間で"真"の(heterogeneousな)電子移動が起こることが示唆された。そこで,本年度においては,新しい真の電子移動系を見いだすため,テトラフェニルポルフィリン(TPP)の金属錯体を取り上げ,水相中のフェリシアンとの間の油水界面電子移動の可能性について検討した。この際,先に開発した電導体分離油水(ECSOW)系を活用し,TPPのCo,Zn,およびCd錯体について調べたところ,Cd錯体のみがニトロベンゼン/水界面の分極領域内にフェリシアンとの間の電子移動によるボルタンメトリー波を与えることが明らかになった。このようにして見いだされた新しい油水界面電子移動系について,さらに交流インピーダンス測定を行い,電子移動の速度定数を決定することができた。この実験データを元に,マーカス理論に基づく理論的な考察を行った。 さらに,生体系へのアプローチ一環として,アスコルビン酸-クロラニル系およびグルコースオキシダーゼに触媒されるグルコース-ジメチルフェロセン系について,反応機構の解明を行った。サイクリックボルタモグラムのデジタルシミュレーションにより,どちらの系も真の電子移動ではなく,溶液内の電子移動によるイオン移動機構であることが明らかになった。 また本研究では,TPPのZn錯体を用いて,これを溶解した1,2-ジクロロエタンと水との間の界面での光誘起電子移動の研究も行った。油水界面での光励起電子移動は,光合成系のモデルとして有用である。水相を硫酸によって酸性にし,油水界面に可視光を照射したところ,明瞭な光電流が観察された。各種条件下での測定の結果,この光電流は,光励起されたZnTPP錯体による水相中の水素イオンの還元反応であることが示唆された。反応生成物が水素であるかどうかについてはまだ確証が得られていないが,もし水素であれば水素エネルギーの貯蔵・生産の観点から注目される。
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