ポリオキソモリブデート錯体は、有機試薬の金属イオンへの配位結合による錯生成反応と異なり、モリブデン酸イオンと異種イオン種とが酸素原子を共有し縮重合することにより生成する。本研究では、モリブデン酸(VI)-バナジウム酸(V)複合配位子による分離分析化学の高度化を目指している。 複合型配位子によるポリオキソメタレート生成反応の基礎検討として、ボルタンメトリック酸化還元挙動について検討した。まず、アセトニトリルを基準溶媒とする二元混合溶媒系でケギン錯体、[PMo_<12>O_<40>]^<3->のボルタンメトリーを詳細に検討した。^7Li NMRにより、塩基性度の高い溶媒がLi^+へ選択的に溶媒和することを見出し、選択性の強弱が当溶媒和点を用いて定量的に説明できることを示した。また、ケギン錯体の1電子波から2電子波への変換挙動が、Li^+の選択的溶媒和を基に説明できることを明らかにした。さらに、同じ電荷を持つモリブデン酸錯体とタングステン酸錯体のボルタンメトリーを比較すると、モリブデン酸錯体の方が2電子波への変換が容易に起こることが説明されないことに着目した。バナジウム含有三元錯体の酸化還元電位を用いて、モリブデン三をイオンサイズが小さく、表面電荷密度が大きく、その結果、ことを、明らかにした。 さらに、ポリオキソメタレート錯生成反応に基づく各種酸素酸イオンの高感度キャピラリー電気泳動分析法への応用研究を進めている。まず、モリブデン酸(VI)配位子によるケギン型[AsMo_<12>O_<40>]^<3->錯体生成反応をAs(V)、As(III)の酸化数別状態分析に応用し、良好な結果を得た。さらに、モリブデン酸(VI)の一部をモリブデン(V)に還元することで生成するヘテロポリブルー錯体を配位子として用いることで、従来の水-有機混合溶媒系と異なり、水溶液系でキャピラリー電気泳動法によるP(V)、As(V)の同時定量が可能となることを見出した。現在、分析対象イオンを拡大し、分離分析化学の新たな展開を目指している。
|