研究概要 |
金属イオンの溶媒抽出において、酸性抽出試薬による抽出系に中性配位子を添加すると抽出が著しく増大する場合があり協同効果と呼ばれる。一般に、金属間の分離は悪くなることが知られているが、ある特定の酸性抽出試薬と中性二座配位子の組合せで、金属間の分離が向上することがある。本研究では、酸性抽出試薬としていくつかのβ-ジケトン類を用いて協同効果による希土類元素(RE)間の分離係数の変化について検討し、また、環境への負荷の小さい試薬による高い分離性能を有する系をめざした。協同効果の大きい含フッ素β-ジケトン類(2-テノイルトリフルオロアセトンHtta)で、種々の多座の中性配位子による協同効果の変化を調べところ、従来ほとんど研究されなかったジオキシム系中性二座配位子において大きな協同効果を示し、希土類元素の一部ではあるが金属間の分離の向上が見られた。その部分だけであれば、従来良く用いられている二座配位子1,10-フェナントロリン系とほぼ同等であった。また、工業抽出試薬のLIX 51についても検討しHttaと同様の協同効果が見られた。高分子量β-ジケトン系酸性抽出試薬として、ジベンゾイルメタン(Hdbm)やLIX 54を用いた。Hdbm系ではphenのジメチルおよびジフェニル誘導体間における抽出定数に大きな差はなく、中性配位子の置換基の影響は小さい。また、協同効果は、原子番号の増大と共に増加し、重希土では減少する傾向がみられた。希土類元素の分離係数の最も大きいものの一つであるジ-2-エチルヘキシルリン酸D2EHPAと比較して、全体の抽出では分離能はD2EHPAには及ばないものの、軽希土においてはD2EHPAよりも大きくなった。用いた試薬は、ハロゲンやリンなどを含まない抽出試薬だけであり、環境に優しくしかも従来の試薬より部分的ではあるが分離能のよい系が見つかったといえる。
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