研究概要 |
サルモネラ鞭毛レギュロンの転写は,RpoSによって定常期特異的に負に制御されている。昨年度の研究により,この制御の直接的な調節因子はnlpC遺伝子産物であることが明らかになった。今年度は,鞭毛レギュロンのNlpC制御の機構とチミン飢餓で誘導されるプログラム細胞死とRpoS制御の関係について解析した。 1.nlpC遺伝子のRpoS制御 nlpC遺伝子自身の発現制御機構を解析した。その結果,この遺伝子のプロモーターはRpoS依存性であることが明らかになった。したがって,RpoSはnlpC遺伝子を正に制御することを介して鞭毛レギュロンを負に制御しているものと考えられる。 2.RpoS制御におけるNlpC制御の貢献度 nlpC突然変異体における鞭毛レギュロンの活性上昇率はrpoS突然変異体の場合の約半分程度であり,RpoSの下流にはnlpC遺伝子以外にも鞭毛レギュロンを負に制御する遺伝子が存在するものと推定される。しかし,現在までのところ,nlpC突然変異以外にRpoS依存的に鞭毛レギュロンの活性化をひきおこす突然変異は見つかっていない。 3.チミン飢餓で誘導されるプログラム細胞死とRpoS制御 チミン飢餓で誘導されるプログラム細胞死が,鞭毛遺伝子の発現と関係していることを見出した。プログラム細胞死はRpoSで制御されている場合が多い。そこで,RpoS依存的プロモーターのコンセンサス配列をサーチすると,鞭毛遺伝子の1つであるflgJの上流に見出された。FlgJは,我々の以前の研究により,ペプチドグリカン分解活性があることが示されている。したがって,チミン飢餓時には,RpoSにより鞭毛レギュロンの負の制御により鞭毛形成は抑制される一方で,鞭毛蛋白質の1つであるFlgJだけは誘導合成され,細胞溶解を促進するものと推定される。
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