研究概要 |
サルモネラ鞭毛レギュロンは,RpoSによって定常期特異的に負に制御されている。本研究は,この制御系の機構と生物学的意義を解明することを目的として行われた。 1.抑圧突然変異体の単離と突然変異遺伝子の決定 まず,対数増殖期でもRpoSの効果を充分検出できる条件を検討し,最少培地での培養によってそれが達成されることを見出した。野生型RpoS存在下では,鞭毛遺伝子fliAとlacZの融合体をもつ菌株はラクトース最少培地での増殖能が低いことを確認した。これを親株として用いてトランスポゾンTn5による突然変異誘発を行い,ラクトース最少培地での増殖能が増大する突然変異体を多数単離した。それらについて,ラクトース利用能がTn5と100%連鎖しているものをスクリーニングし,RpoS効果の抑圧突然変異体として1株の候補株を得た。 Tn5挿入点近傍のDNAを逆PCR法により増幅して塩基配列を解析し,挿入点がnlpC遺伝子内であることを決定した。この遺伝子のプロモーターはRpoS依存性であることが明らかになったので,RpoSはnlpC遺伝子を正に制御することを介して鞭毛レギュロンを負に制御しているものと考えられる。 2.チミン飢餓で誘導されるプログラム細胞死とRpoS制御 チミン飢餓で誘導されるプログラム細胞死が,鞭毛遺伝子の発現と関係していることを見出した。プログラム細胞死はRpoSで制御されている場合が多い。そこで,RpoS依存的プロモーターのコンセンサス配列をサーチすると,鞭毛遺伝子の1つであるflgJの上流に見出された。FlgJは,我々の以前の研究により,ペプチドグリカン分解活性があることが示されている。したがって,チミン飢餓時には,RpoSにより鞭毛レギュロンの負の制御により鞭毛形成は抑制される一方で,鞭毛蛋白質の1つであるFlgJだけは誘導合成され,細胞溶解を促進するものと推定される。
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