真核生物のRNAポリメラーゼIIによる転写開始において中心的な役割を果たしている基本転写因子TFIIDを構成するTAFサブユニットのうち、分裂酵母において細胞周期のM期との関連が示唆されているふたつのWDリピートTAF(TAF72およびTAF73)に注目し、これらを介した転写制御の分子機構の解明を目的として本研究を行った。 まず、WDリピート領域の役割についての手がかりを得るため、TAF72のWDリピート領域を含むC末端側半分と相互作用する蛋白質をtwo-hybrid法を用いて探索し、ヒストンH4と相同性を示す別のTAFを同定した(TAF50と命名)。また、TAF71とTAF50の直接的結合を組換え蛋白質を利用して明らかにするとともに、細胞抽出液を用いた共免疫沈降実験により、TAF50がTFIID複合体の構成要素であることを生化学的に証明した。さらに、TAF72とTAF50とともにヒストンアセチル転移酵素Gcn5を含む複合体(SAGA複合体)を同定した。 次に、生化学的解析によるサブユニットの同定を補完する目的で、他の生物で同定されているTAFが分裂酵母にも存在するかどうかをゲノム配列情報を利用して検索し、多数の推定上のTAFを同定して、TAFが進化上高度に保存されていることを見出した。 最後に、WDリピートTAFの生体内での機能を解析するためにTAF72およびTAF73の温度感受性変異を単離した。 以上により、WDリピート領域のサブユニット間相互作用に関する機能が明らかになるとともに、分裂酵母の基本転写装置の構成に就いて新しい知見が得られた。さらに、今後の解析に役立つと思われる分裂酵母菌株を作製することができた。
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