研究概要 |
ショウジョウバエ科昆虫は、熱帯、寒帯まで主に森林地帯に広く分布している。しかし、それぞれの種がもつ分布範囲はそれほど広い訳でなく、熱帯種は熱帯にのみ、温帯種は温帯にのみ分布している。今回の研究は、何故熱帯種は温帯に分布できないのか、何故温帯種は熱帯に分布できないのか、という問題を取り扱った。まず、何故熱帯種は温帯に分布できないのかという問題であるが、日本産30種を対象とした比較研究から、低温耐性が低いことがその原因であると結論された。ところで、低温に適応した種は代謝率が高いという報告がさまざまな生物でなされているが、ショウジョウバエでは、そのような傾向は認められなかった。次に、何故温帯種は熱帯に分布できないのか、という問題であるが、低温耐性の獲得に伴い何らかの適応形質が変化し、そのため暖かい地域で不利になり、生息できないという可能性がある。そこで、28種を対象に、歩く速度と蛹の発育速度調べた。歩く速度は敏捷性を反映していると考えられ、歩く速度が遅いとより捕食者に襲われやすい可能性がある。蛹期間が長い(蛹の発育速度が遅い)と、やはり、捕食者、寄生者、感染性微生物に襲われる確率が高くなると考えられる。実験の結果、低温耐性の高い種ほど歩く速度が遅く、蛹の発育速度も遅いことが示された。したがって、低温耐性が高い種が暖かい地域に分布できないのは、低温耐性が低い種に比べ、捕食者,寄生者や感染性微生物に襲われやすいためである可能性がある。しかしながら、ショウジョウバエの捕食者,寄生者や感染性微生物についての情報は極めて限られている。そこで、日本全土でショウジョウバエの寄生蜂について調査し、20種近い種を確認した。今後、熱帯のショウジョウバエが温帯種に比べ寄生蜂に攻撃されにくいかどうかを調べる必要がある。
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