タケ類における一斉開花・枯死は数十年に1度の稀な現象として古くより知られているが、その遺伝的メカニズムは全く解明されていない。本研究では、1997年3月に伊豆諸島・御蔵島で起こったミクラザサ個体群の一斉開花・枯死、個体群の回復過程について、実生個体群、未開花株、再生稈より合計438点、八丈島・三原山における未開花個体群より85点、総計523点の葉試料を採集し、全DNAを抽出・精製した。質・量の均質な約1割を精選し、SSR法によってクローン構造と遺伝構造を比較検討した。 イネにおいて、1997年にコーネル大学グループによって決定・公開された94個のマイクロサテライト領域に関するプライマー対のうち、25対を選び、また、生物資源研RGPによって作成された5対、合計30対のプライマー対を使用し、ミクラザサのSSR領域の多型バンドの検出を試みた。その結果、8本の染色体に座乗する合計9か所のSSR領域が有効であることが判った。プライマー対の濃度は25pモル、合成酵素はAmpli Taq Gold 0.25U、PCR反応条件は余熱95℃、10分、変性94℃1分・アニーリング55℃1分・伸長72℃2分、を35サイクル、後伸長72℃5分とし、バンドの検出は3%アガロースゲル電気泳動の後、EtBr染色によった。 御蔵島御山のミクラザサの分布中心付近の登山道沿いに存在した数本の稈よりなる未開花株が遺伝的に異なる2クローンから成ること、20メートル以上隔たった再生稈が同一クローンに属する反面、1株のように接近した数本の再生稈が3クローンより成る事、などが判った。また、八丈島・三原山の約250mにわたって帯状に分布する個体群が3クローンより成り、合計5クローンが存在すること。これらはいずれも、御蔵島の個体群に比べ多型性に乏しく、遺伝的には御蔵島より派生した個体群である可能性を示唆した。
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