深海性大型自由遊泳性底生生物個体が、餌を求めてどのくらいの生活空間を利用するかを明らかにするため、魚肉等の餌を設置し、匂いを頼りに遠隔化学刺激で腐肉食生物を蝟集させる実験を実施した。本年度は通称深海性「底魚」が垂直的にどの程度海底を離れるか実証しようとした。東大海洋研研究船淡青丸KT-03-17次航海で、房総沖大陸斜面中部1000mで実験を行った。海底に深海カメラ-流速計-ベイトトラップからなる基地の係留系を置き、この上部50m、100m、200m、400mにベイトトラップを釣り上げ、3日間設置した。最下層0mのトラップにはコンゴウアナゴ、イラコアナゴ、イバラヒゲ、カラフトソコダラ、ハナソコダラ、カナダダラ等が当該海域の当該水深で期待される群集構造で捕獲もしくは撮影されたが、海底上400mのトラップにカラスザメが1尾捕獲されたのみで、他の層には漁獲物がなかった。 イバラヒゲ、カラフトソコダラ、ハナソコダラ、カナダダラ等は形態学的に遊泳力が大きいと期待され、米国研究者により中層に游ぎあがる例が報告されているが、本実験からは中層への泳ぎ上がりが喧伝・引用されすぎであることが強く示唆された。餌の存在密度から推測される通り、中層は海底面と比較してかえって餌の捕獲に不利であるはずとの作業仮説が指示された。この種のネガティブデータは積み重ね実験が必要であり、次年度以降もこの実験を継続し、知見を蓄積することが必要である。また、海底と中層間の臭いプリュームの垂直混合に関しての物理化学的実測も望まれるが、現有設備および体制では不可能であり、将来の課題としたい。なお、同一測点での時間別繰り返しトロール採集実験からは、500m水深地点に関しては一部の底魚類に軽微ながら統計的に有意な昼夜差が認められ、結果を国際学会で発表後、国際誌に投稿中である。
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