研究概要 |
深海性大型自由遊泳性底生生物個体が、餌を求めてどのくらいの生活空間を利用するかを明らかにするため、魚肉等の餌を設置し、匂いを頼りに遠隔化学刺激で腐肉食生物を蝟集させる実験を実施した。深海性底魚や十脚甲殻類が垂直的にどの程度海底を離れるかの実証研究を重ねるため、研究船淡青丸KT-04-07,KT-74-10次航海で、房総沖大陸斜面上部500mと相模トラフ軸1500mで実験を行った。海底に深海カメラ-流速計-ベイトトラップからなるベースの係留系を置き、この上部50m、100m、200m、400mにベイトトラップを釣り上げ、各1日間設置した。最下層0mのトラップおよびカメラには当該海域の当該水深で期待される群集構造で捕獲もしくは撮影されたが、海底上200mのトラップにエゾイソアイナメや数尾捕獲され、200m/24hの移動を実証した。しかし、相模トラフの測点では直前に激しい地滑りが発生した混濁流が残存し、これを避けた行動とも解釈できる結果を得た。 ソコダラ類は形態的に遊泳力が大きいと期待され、米国研究者により中層に游ぎあがる例が報告されたが、本実験からは中層への泳ぎ上がりが喧伝・引用されすぎであることが強く示唆された。餌の密度から推測される通り、中層は海底面と比較してかえって餌の捕獲に不利であるはずとの作業仮説が指示された。この種のネガティブデータは積み重ね実験がきわめて重要である。また、海底と中層間の臭いプリュームの垂直混合に関しての物理化学的実測も望まれるが、現有設備および体制では不可能であり、将来の課題としたい。なお、同一測点での時間別繰り返しトロール採集実験や、6000mに至る採集調査により、500m水深地点に関しては一部の底魚類に軽微ながら統計的に有意な昼夜差が認められ、また、成長に伴う食性変化と生息深度の変化を国際・国内学会で発表後、国際誌および国際誌に出版した。
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