研究概要 |
ボルネオ島,スマトラ島およびマレー半島の6カ所において,国立公園内の熱帯雨林およびその周辺の二次林において,アリ植物マカランガ14種の個体毎に植物,共生アリ,共生カイガラムシおよび特殊化した植食性昆虫(チョウ,タマバエなど)をそれぞれ採集した(Stuart Davies氏,Swee Quek氏,村瀬香氏,市岡孝朗氏の協力による). 今年度は共生カイガラムシについて,マレー半島とボルネオ島から採集した7種50株のマカランガに居住するカタカイガラムシに関して、ミトコンドリアDNA (mtDNA)の468bpの塩基配列に基づき分子系統学的解析を行った. 新たに設計したPCR用プライマーを用いて,共生カタカイガラムシのmtDNA CO I遺伝子塩基配列の一部を決定し,系統樹を作成した.その結果,カタカイガラムシは18のアミノ酸ハプロタイプに分かれ,中でも,マレー半島とボルネオ島のカタカイガラムシは互いに大きく二つに分岐し,共生シリアゲアリの系統樹とその点で一致した.また,このマレー半島-ボルネオ島のもっとも遠いカタカイガラムシ同士の分岐年代は,約700万年前であると推定され,共生シリアゲアリの分岐年代とほぼ一致した.これらのことから,マレー半島とボルネオ島の間での地理的隔離により共生シリアゲアリとカタカイガラムシが同時に分化した可能性が示唆される. 先行研究(Itino et al.2001)により,マカランガと共生シリアゲアリはその系統樹の一致性からほぼ共種分化したことが示されている.今回,カタカイガラムシの系統樹とマカランかおよび共生シリアゲアリの系統樹を比較したところ,分岐年代の一致性などから,アリ植物,アリ,カイガラムシは,ほぼ同時代に,相互の共生相手を入れ替えながら種分化していったこと(共多様化)が示唆された.
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