干潟に生息するチゴガニが示す特異ななわばり維持行動であるバリケード構築行動を生む要因を検討するため、本年度は昨年度に得られた成果を基に、次の2点についての野外調査を行った。 1.バリケード構築と配偶相手獲得との関連性 バリケード構築の頻度が繁殖期に高くなることが、昨年度の調査から明らかになったことから、バリケード構築行動が雄の配偶相手獲得に有利に機能するものかの検討を行った。具体的には、繁殖期につがい形成に至った雄と、その近傍で求愛行動を示しているつがい形成に至っていない雄との間で、近隣個体へのバリケード構築の有無を比較した。その結果、つがい形成雄は、非つがい形成雄よりも、バリケード構築率が高い傾向を示したが、観察例数が限られていたため、その違いは有意でなかった。来年度さらに観察例数を増やして、この点を明確にすることを予定している。 2.バリケード状構築物に対する忌避傾向の種間比較 チゴガニと、チゴガニに近縁でバリケード構築行動を示さない種(ハラグクレチゴガニ、コメツキガニ)の間で、バリケード状構築物に対する忌避傾向を比較することで、チゴガニにバリケード構築行動が発達してきた進化的基盤を検討した。人工のバリケードに対して、ハラグクレチゴガニ、コメツキガニともに、チゴガニに比べて、これを破壊する傾向が強いこと、さらに破壊しない場合でも、バリケードを避ける傾向は、チゴガニに比べて、ハラグクレチゴガニは明らかに低いことが明らかとなった。即ち、チゴガニは、近縁のバリケード構築をもたない種に比べて、バリケード状構築物に対する忌避傾向が明らかに強いという特性をもっていると云える。
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