干潟に生息するチガガニが示す特異ななわばり維持行動であるバリケード構築行動を生む要因を検討し、3年間の研究から次の点が明らかにされた。 1.バリケード構築頻度と外的要因 バリケード頻度は繁殖期に増加するが、潮汐条件とは対応しなかった。またその頻度は周辺個体の密度とも相関しないし、すみ場所の底質条件が大きく異なる2地域の間でも違いがみられなかった。 2.バリケード構築と配偶相手獲得との関連性 つがい形成雄と非つがい形成雄の問で、近隣個体へのバリケード構築率を比較したところ、つがい形成雄の方がバリケード構築率が有意に高かった。このことから、バリケード構築行動が雄の雌獲得のための配偶行動と結びついたものであることが示された。 3.バリケード状構築物に対する忌避傾向の種間比較 バリケード構築行動を示すチゴガニと、まったくこの行動を示さない近縁のハラグクレチゴガニとコメツキガニの3種について、バリケード状構築物に対する忌避傾向を比較したところ、チゴガニは、他の2種に比べて明らかに、その忌避傾向が強かった。 4.数理モデルからの説明 バリケード構築のゲームモデルを作り、戦略の頻度のダイナミクスを調べたところ、バリケードを造られるコストを、バリケードの頻度に対して急激に増大させることで、一部の個体だけがバリケードを造るという解が得られたが、その解は漸近安定とはならなかった。このモデルに、バリケードの頻度によってバリケードを壊す壊さないを切り替える戦略を導入することで、一部の個体だけがバリケードを造るという解が安定となった。さらにバリケード構築行動の生活史戦略モデルを作り、そこでESSを求めたところ、バリケード構築頻度は繁殖期に増大し、野外のデータとよく合う結果を導くことができた。
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