近年、長期生態研究サイトやリモートセンシングによる空間データが蓄積され、土地被覆・土地利用の時間変化が地図データとして読みとられるようになった。本研究では、空間マルコフモデルにもとづいて、時間空間データより生態系プロセスや人間活動の影響を推定する新しい数理的手法を確立し、生態系変動予測の理論的基盤を整備することが目的であった。 [1]地図データから生態系プロセスを読み取る パナマのバロコロラド島では1980年代初期から森林の更新や種多様性の解明を目的とした大面積調査が続けられている。Steve Hubbell教授のグループとの共同研究で、12年間にわたる植生高の空間データの時系列を解析する。調査区を約2000個の5x5m方形区(サイト)に格子状に区切り、最大樹高データをもとに各サイトを「ギャップ」と「林冠」に分け、それらの空間パターンの変遷を説明するマルコフ遷移格子モデルを構築した。時間空間変動データの解析により、「林冠」サイトから「ギャップ」サイトへの変化速度や逆向き(修復過程)の速度は、隣接するサイトの状態に強く依存することを特定した。その結果空間パターンはランダムではなくギャップが集中したものになる。 このパラメータ推定において年当たりの遷移サイト比率を使うと非常に大きなバイアスをもたらすことがわかった。これは隣り合うサイトの相互作用により1つのサイトの遷移が他の近傍サイトの遷移確率を変更するためである。箱山洋博士と共同で開発したMCBC法を適用した。 [2]土地利用変化データにもとづいたモデリング 土地を森林、農地、道路といった幾つかのタイプに分類し、各々の土地利用形態が時間的空間的に変化するプロセスをモデル化する。空間データから、状態変遷の確率を推定し、それをもとにしてモンテカルロシミュレーションを行い、将来の森林の減少速度や減少規模を予測する理論を展開した。
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