本研究では、世代が重複する一年草コニシキソウの繁殖特性と2つの種子散布様式の生態学的意義について解析を行った。その結果、以下の点が明らかとなった。1)コニシキソウは葡匐型の栄養成長を続けながら同時に3ヶ月以上の長期間にわたって種子繁殖を行い、栄養成長から種子繁殖への切り替えがみられなかった。2)種子繁殖期前半に生産された種子は発芽し、成長・繁殖を繰り返し、1年間で3世代繰り返し、世代が重複することが判明した。3)種子繁殖期前半では、一年草であるにもかかわらず、親子間の競争が生じると思われ、種子繁殖期後半に生産された種子では、翌年の発芽時期に種内競争が生じると考えられた。4)これらの競争を回避するために、種子繁殖期前半に生産された種子は、自動種子散布をし、親株の広がりより遠くまで種子が散布されることが判明した。5)一方、種子繁殖期後半に生産された種子は自動種子散布されることはなく、アリによる収穫アリ型種子散布がみられた。コニシキソウには18種のアリが来訪していたが、そのうち雑食性のトビイロシワアリとオオズアリのみが種子を運搬していた。6)オオズアリは典型的な種子捕食者であり、運搬した種子の多くを食害し、獅子散布効率は低いことが判明した。7)一方、トビイロシワアリは、巣に搬入した種子の約半分を再び巣外に搬出し、巣内に残った種子も巣外に搬出された種子も、あまり食害されていなかった。したがって、トビイロシワアリは、収穫アリ型種子散布としては例外的に種子散布効率が高く、コニシキソウにとって有能な種子散布者であることが示唆された。ただし、トビイロシワアリが食料としないコニシキソウを運搬する意義については未解決な課題である。
|