不均質な環境下に生育するクローナル植物が環境の変化をどのような原理に則って認識しているかを明らかにするための実験を行った。本研究で提唱した仮説は、「クローナル植物は、複数のラメット間でおこる物質の転流を通じて、個々のラメットが存在する環境の価値を相対的に評価し、その情報に基づいて物質分配の様式を変化させ、ラメット間、その器官間での物質分配様式を決定している」というものである。この仮説の実験的な検証を試みた。当初はカキドオシとシロツメクサを材料として使用する予定であったが、予備実験の結果、シロツメクサは、本研究の材料としては予定していた実験操作への耐性が劣るために、ふさわしくないことが明らかになった。そこで、予定したカキドオシを材料とした実験に加え、水生のクローナル植物であるボタンウキクサを使用した実験も行った。野外で採集した単独のクローンから、実験を行うのに十分な数の植物体を両種について栽培した。カキドオシを用いた実験では、空間的に不均質な環境に対する植物の反応を個体重の変化から定量化した。一方、ボタンウキクサを用いた実験では、時間的に不均質な環境に対する反応を定量化した。しかし、これらの実験の結果については、解析に特殊な統計処理が必要であり、そのためのコンピュータプログラムの作製を行っている。これまでの解析結果より、上記2種のクローナル植物では、個々のラメットが独立にそのラメットが置かれた環境のパラメータを感受し、それに基づき地上部と地下部の分配を決定しているのではなく、複数のラメットが感受した環境パラメータを相対的に評価し、個々のラメットの分配比などを決定している可能性が大きいことが示唆されている。
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