沖縄県西表島(与那田川河口)のUca lactea perplexa個体群を対象とした雄の大型鋏脚の左右不相称性に関する調査を実施し、平成14年度に調査した沖縄本島の同種およびU.vocans vocansの個体群と比較するとともに、タイ国プケット島とラノンのU.l.annulipesおよびU.v.hesperiaeに関するデータも加えて本格的な解析を進めた。また、沖縄本島(大浦)のU.v.vocansとタイ国プケット島のU.v.hesperiaeの雄間闘争を観察し、闘争における鋏脚の左右性の効果を検討した。オーストラリアの種類に関しては共同研究者との情報交換を進めた。主な成果は以下のとおりである: 1.西表島のU.l.perplexaの雄503個体では、左の鋏が大型のもの(「左利き」)が49.9%を、大型鋏脚が再生肢(過去の闘争や捕食回避などで一度は脱落)のものは25.1%を占めた。左利きの割合は沖縄本島の同種およびタイ国の近縁亜種のU.l.annulipesでも同様であり、極めて安定していることが明らかとなった。一方、再生肢の割合は個体群間で大きく変動し、生態的要因の重要性が地域間で異なることが示唆された。 2.種間比較では左右性の変異が大きいことが確認された。すなわち、U.lacteal complexで約50%の左利きの割合が、U.vocans complexでは4.0-6.5%と極めて低く、その変動も若干大きかった。再生肢の割合は同地域のU.lacteal complexとU.vocans complexで類似していたが、より詳細な検討が必要である。 3.左利きの雄が少ないので観察例数は十分ではないが、沖縄とタイ国のU.vocans complexでは、雄間闘争における勝者の割合に左右性は認められなかった。
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