土中で蛹化する昆虫は、地温の日周期変化を時刻信号として利用し、羽化時刻を設定している。土の熱伝導率は低い。そのため、地温の日周期変化の位相は深くなるほど遅れる。深いところで蛹化した蛹は何らかの方法でこの遅れを補正しなければ、地上の朝に羽化することはかなわない。この点を明らかにするため、タマネギバエの羽化時刻をさまざまな温度周期条件下で検討した。その結果、ハエは地温の日較差を測ることで地温の位相の遅れを補正していることが明らかになった。土深が深いほど地温の日較差は小さくなるが、これに反応してハエは地温の上昇開始時刻(夜明け)よりもはやく羽化した。 タマネギバエをはじめ多くのハエ類は早朝に羽化する。それにしても、なぜ早朝なのだろうか?早朝羽化の意義についてはいくつかの仮説が提出されているが、そのなかでも「早朝の高い湿度と低い気温が、羽化直後の個体の翅の進展に好適である」が有力である。しかしながら、湿度や温度が翅の進展にどのように作用するのかよくわかっていない。この点を明らかにするために、羽化直後のタマネギバエをさまざまな湿度や温度条件下におき、翅の進展具合を比較した。その結果、乾燥は翅の進展をほとんど阻害しなかったのに対し、高温は短時間であっても翅の進展を阻害した。早朝羽化の意義は、すくなくとも昼間の高温を避け、翅の進展を確実にする点にありそうだ。 歩行活動リズムが季節よって異なることがいくつかの昆虫で知られている。この点について、タマネギバエで検討をおこなった。成虫の歩行活動のピークは春と秋には正午に、夏には午後3時にあった。室内実験の結果、このピーク時刻の季節変化には気温が大きく関わっていることをが示唆された。
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