タバコ小胞体局在型リノレン酸合成酵素遺伝子(NtFAD3)を導入した形質転換タバコでは、ほとんどの場合、野生型タバコよりもリノレン酸含量が大幅に増加する。しかし、S44と名付けた系統では、大幅にリノレン酸含量が低下した。このS44株で観察されるジーンサイレンシングでは、導入したNtFAD3遺伝子から転写されたmRNAは蓄積し、内在性のNtFAD3遺伝子から転写されたmRNAはスプライシングの異常により、ミススプライスされた産物として蓄積している。ポリソーム解析の結果から、S44株では導入したNtFAD3遺伝子のmRNAは翻訳効率が低い画分に分布していた。次に、mRNAを単離してin vitroでポリソームを再構築して解析を行ったところ、やはり導入遺伝子のmRNAは翻訳活性の低い画分に分布することが明らかになった。このことは導入遺伝子から転写されたNtFAD3 mRNAの構造自体に翻訳を阻害するような問題が含まれていることを示唆している。 また、内在性のNtFAD3 mRNAは第5イントロン前後のスプライシングが阻害されることで発現抑制されていると考えられている。そこで、当研究室で開発したin vivo splicingアッセイ系を用いて、各イントロンのスプライシング効率を野生株タバコを用いて調べたところ、第5イントロンが他のイントロンに比べて、特にスプライシング効率が低いことが明らかになった。このことは第5イントロンのスプライシングには特殊な調節機構が存在し、ジーンサイレンシングによる抑制機構と関連していることが示唆された。以上の結果、これまで考えられてきた細胞質において塩基配列の特異性に基づいたRNA分解機構だけでは、S44系統に見られるジーンサイレンシングは説明できないことが明らかになった。
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