これまでの研究により、アルミニウム(Al)イオンが植物細胞に吸着すると、ミトコンドリアの機能障害と活性酸素が誘発され、特に活性酸素の誘発が細胞増殖阻害の直接的な原因であることを見出していた。本研究では、植物細胞におけるAl毒性機構の解明を最終目標とし、Alの細胞への吸着から活性酸素誘発に至る初期応答反応と、活性酸素誘発から細胞死に至る後期応答反応の詳細を各々解析し、Alの障害経路を明らかにすること、さらに、単離ミトコンドリアを用いて、ミトコンドリアの機能障害による活性酸素誘発の可能性を直接的に証明することを目的としている。 本年度は、タバコ培養細胞を用いてAlによる初期応答反応について解析した結果、Alによる細胞内浸透圧の低下と細胞骨格の可塑性の低下という2つの現象を新たに見出した。Alにより細胞内の浸透圧が低下すると、細胞への水の吸収が阻害されることから、これがAlによる細胞伸長阻害の原因である可能性も考えられる。さらに、植物における低浸透圧ストレスは活性酸素を誘発することも報告されている。一方、細胞骨格の可塑性の低下は、Al処理した細胞を高張液に懸濁し、原形質分離をおこす際のアクチンフィラメントの動態をローダミンファロイジン染色で観察することから見い出した。なお、上記のタバコ培養細胞から選抜したAl耐性細胞株では、Al感受性の親株と比較して、浸透圧に関しては同程度の低下が見られたが、細胞骨格の可塑性の低下は軽減されていた。 次年度は、これら2つの現象について、その分子機構を解析するとともに、活性酸素の誘発やミトコンドリア機能障害との関わりについて明らかにする予定である。
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