根に見られるAlによる障害の主なものは、伸長阻害や水分・養分吸収阻害さらには壊死であるが、これらの障害はすべて根端の分裂域ならびに伸長域の細胞レベルでの障害に基づくものである。本研究の目的は、これらAlによる細胞毒性機構の解明をめざし、主としてタバコ培養細胞を用いて解析した。 本年度は、これまでの研究成果を踏まえ、特にAlの吸着直後に見られる細胞の初期応答反応を中心に解析し、Alによるショ糖吸収への影響ならびに細胞質カルシウムイオン(Ca^<2+>)の濃度変動に関して新しい知見を得た。 細胞が増殖するためには炭素源が必須であり、タバコ培養細胞の場合は、培地中のショ糖H^+との共輸送で吸収する。Alは、このショ糖-H^+共輸送体を、Al処理開始後3時間目までに阻害することを見い出した。ショ糖の取り込みは、水吸収と強くリンクしていること、また吸収されたショ糖はミトコンドリアにおけるATP合成に必要であることから、Alによるショ糖吸収阻害は、Alによる水吸収阻害の原因となり細胞伸長を阻害するとともに、ミトコンドリアの機能を低下させ、活性酸素による細胞死の原因となる可能性が強く示唆された。 一方、Alは細胞表層に吸着した状態で、細胞内に様々な応答反応を誘発する。本研究では、Alストレスシグナルの細胞内への伝達経路に、細胞質のCa^<2+>イオン濃度([Ca^<2+>]_<cyt>)の変動が関わる可能性についても検討した。タバコ細胞内でアポエクオリン蛋白質を発現させた系を用い、生きた細胞内の[Ca^<2+>]_<cyt>変動をモニタリングしたところ、Alストレスを与えた直後ならびにAlストレスによる増殖阻害が現れる後期において、一過的な[Ca^<2+>]_<cyt>の変動を見い出した。これらの結果より、[Ca^<2+>]_<cyt>の変動もまた、前述の様々な応答反応の誘発に関わっている可能性を見い出した。
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