研究概要 |
好熱性光合成細菌である緑色糸状細菌のグループは、16S-rDNAの系統解析によると光合成細菌の中で最も初期に分岐するため、光合成器官の初期進化を考える上で重要である。緑色糸状細菌の光合成電子伝達経路は、主としてChloroflexus属のChloroflexus aurantiacusを用いて研究されてきたが,その経路はほとんど解明されていない。 本研究により,新属・新種の緑色糸状細菌として長野県の中房温泉から単離されたRoseiflexus cast enholziiを用いて緑色糸状細菌の電子伝達系の概要をあきらかにした。Roseiflexus属のひとつの特徴は、Chloroflexus属と異なりクロロソームを欠いている点で有り,そのことによりR.cast enholziiでは吸収変化の正確な測定が可能となった。 生細胞に閃光を照射すると、光酸化した反応中心結合型チトクロムの数十ミリ秒での速い再還元が観察された。この再還元速度の温度依存性を調べたところ50℃付近で最も速く,この細菌の生理学的に適した条件下で最適化されていた。精製した反応中心に膜分画より得た銅タンパク質であるオーラシアニン画分を加えた再構成系で閃光照射実験を行うと、光酸化したチトクロムの再還元が認められ、電子伝達系へのオーラシアニンの関与が考えられた。また、膜標品に阻害剤HQNOを添加して閃光照射すると、チトクロムの再還元速度が低下したことから、膜におけるキノール・オーラシアニン酸化還元酵素の存在が示唆された。 以上の結果から、R.cast enholziiの光合成電子伝達経路において、キノール・オーラシアニン酸化還元酵素とオーラシアニンが電子伝達に関与していると結論した。電子伝達系の比較のために,紅色細菌の対応する電子伝達系についての研究も平行して進め,新知見を得た.
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