研究概要 |
I.単細胞緑藻カサノリのV-ATPaseサブユニットアイソフォームの酵母での発現及び機能解析 液胞型のプロトンポンプであるV-ATPaseのproteolipid subunit(プロトン輸送路を形成)について、カサノリの場合、6種類の遺伝子(Vc1〜Vc6)をクローニングした。これら6種類のアイソフォームの機能について酵母発現系を用いて解析を行った。その結果を以下にまとめる。 1)Vc1〜6は、一次構造からは二つのグループに分類される(Vc1&3及びVc2,4,5,6)。恒常的に発現するプロモーターを持つ酵母発現ベクターに組み込み、酵母VMA3欠損株に導入し、形質転換体の液胞の酸性化の回復を蛍光顕微鏡により観察した。Vc1&3は液胞の酸性化を回復しないこと、一方、Vc2,4,5,6は機能を回復できることをみいだした。即ち、Vc2,4,5,6は酵母V-ATPase,proteolipid subunitの一つであるVma3pとして機能することを明らかにした。 2)同様の発現を、誘導可能なプロモーターを持つ酵母発現ベクターを用いて行った。1)では機能回復できなかったVc1 & 3も、大量に発現させれば、液胞の酸性化を回復することをみいだした。 3)更に、酵母V-ATPase, proteolipid subunit (c')をコードするVMA11欠損株を作成し、二つのグループの代表としてVc1&3及びVc2&5の1)と同様の発現、蛍光顕微鏡による観察を行った。その結果、液胞の酸性化はほとんど観察されなかった。誘導をかけて、大量発現させた場合にも有意な酸性化はみられなかった。 以上の結果から、Vc1-Vc6の6種類のアイソフォームはVma3pとしてV-ATPase complexのVO subcomplexに組み込まれ機能すること、Vma11pとしては機能できないことが明らかになった。 II.単細胞緑藻カサノリのV-ATPaseサブユニットアイソフォームに特異的なペプチド抗体の作製 Vc:MADEIYGPVQLT,Vc2:TATPTTPGTEAS,Vc3:MADETKGPVQLT,Vc4:MAETPTTPTSDTTT,Vc5:MATAETPSATPAA、Vc6:MSATPSETLS,それぞれのアイソフォームのN末端近辺のオリゴペプチドを委託合成し、各ペプチドにつきそれぞれ家兎2羽に免疫、ポリクローナル抗体を委託作製した。アミノ酸配列からVc1とVc3、Vc2とVc4に対する抗体の間に交差反応の可能性が予測されたが、Western blotによる解析の結果、それぞれ特異的にアイソフォームを認識することを明らかにした。 これらの抗体は、Western blotによるカサノリの成長段階とアイソフォームの発現、更に、免疫組織染色により細胞内局在性にアプローチするためのツールとして期待できる。今後、その方向で研究を進めていく。
|