ラン藻Synechocystis sp.PCC6803(以下、ラン藻)の膜結合性ヒスチジン・キナーゼHik33は、浸透圧ストレスや低温を検知する多機能ストレスセンサーである。本研究では、前年度に引き続きHik33がどのように浸透圧ストレスと低温を区別して検知するのかを明らかにすることを第一の目的として、Hik33のストレス検知ドメインをドメイン・スワップ法で同定する試みを行った。 1)ゲノム導入型変異Hik33遺伝子の作製 前年度では、Hik33および浸透圧ストレスや低温の検知に関わらないHik31の膜貫通領域と細胞外領域を含むN末端側領域をそれぞれ4つのドメインに分割し、両者間で対応するドメインの入れ替えた10個の異なる変異遺伝子を構築した。本年度では、それらの変異をゲノムに導入するためのプラスミドを構築した。 2)Hik33欠損変異株の作製 ラン藻はゲノムを10コピー以上持つため、ドメイン・スワップの効果を正確に得るためには、変異遺伝子を導入するラン藻のHik33遺伝子が完全に不活性かしていなくてはいけない。これまで得られている変異株では全てのゲノムのHik33遺伝子が破壊されていないため、全てのHik33遺伝子のコピーが完全に破壊された変異株を作製した。この場合、これまで用いられてきた挿入変異の代わりに欠失変異を導入したことが成功の理由と考えられた。 3)ドメイン・スワップ遺伝子のゲノムへの導入 構築された10個の変異遺伝子は、定法に従ってHik33遺伝子欠失変異株のゲノムに導入することができた。 4)Hik33遺伝子欠失変異の相補実験(研究遂行上の問題点) ドメイン・スワップの効果は、DNAミクロアレイ法による遺伝子発現パターンの網羅的解析により明らかしていくが、その前提としてHik33遺伝子欠失変異が正常なHik33遺伝子の導入により相補される必要がある。そのことを確かめたところ、正常なHik33遺伝子をHik33遺伝子欠失変異株に導入しても遺伝子破壊の効果が完全には復活することはなく、実験系を再度組み立て直す必要が出てきた。そのため、本年度内でドメイン・スワップの効果をDNAミクロアレイ法により検定し、Hik33のストレス検知ドメインを同定することはできなかった。
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