研究概要 |
遺伝子工学的手法によりヒスチジンタグを導入したラン藻Synechococcus elongatusの光化学系IIコア標品とフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用い、光合成水分解(酸素発生)反応の分子機構を調べた。本年度は、水のOH伸縮振動に焦点を当て、水分解系における水分子やその反応中間体の反応を、FTIR用いて直接検出することを試みた。 S. elongatusの系IIコア蛋白質を、湿度コントロールによって適度に水和し、連続的な閃光照射によって誘起される各S状態遷移(S_1→S_2、S_2→S_3、S_3→S_0、S_0→S_1)の際のFTIR差スペクトルを測定した。得られたスペクトルのOH伸縮振動領域には、一閃光目に3617/3588cm^<-1>に微分形のバンドが、また、2,3,4閃光目には、それぞれ、3634、3621、3612 cm^<-1>に負のバンドが観測された。これらのバンドはD_2O置換で〜940cm^<-1>、H_2^<18>O置換で〜10cm^<-1>の低波数シフトを示し、酸素発生系を構成するMnクラスターにカップルする水に由来するバンドであることが示された。観測された水のOHバンドのピーク位置が、各閃光誘起差スペクトルにおいて異なり、また、2-4閃光目では負の強度を示したことから、これらは、実際に酸素分子とプロトンに分解される基質水分子の反応を表していることが示唆された。このように、水分解系における水分子の反応を、初めて分光学的に直接観測することに成功し、FTIRが光合成水分解反応の分子機構を調べるのに有用な手法であることが示された。今後、様々な変異を導入した系II蛋白質を用いて、今回得られたFTIRスペクトルを解析することにより、光合成水分解反応の分子機構を明らかにしていきたいと考えている。
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