研究概要 |
1.好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusのCP43蛋白質にヒスチジンタグを導入して得た光化学系II蛋白質複合体中を用い、光合成水分解(酸素発生)反応におけるプロトン放出過程を調べた。酸素発生反応の光駆動サイクル(S状態サイクル)における各中間状態遷移(S_1→S_2,S_2→S_3,S_3→S_0,S_0→S_1)の際の閃光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトルを、広い範囲のpH(pH4.0-10.0)で測定し、各遷移効率のpH依存性を調べた。その結果、S_1→S_2遷移では、pH4.0からpH9.5範囲でpH依存性は見られず、常に高い効率を示した。一方、S_2→S_3、S_3→S_0、S_0→S_1遷移は、高pH側(7.0<pH<9.5)で、一般に高い効率を示したが、その値は低pH側で著しく減少した。この結果より、ラン藻及び植物が行う水分解の過程において、S_1→S_2遷移ではプロトンが放出されず、他の3つの遷移(S_2→S_3、S_3→S_0、S_0→S_1遷移)でプロトンが放出されていることが示された。 2.光化学系II蛋白質において、環状電子移動経路を形成し、光保護作用を持つと考えられているクロロフィル(ChlZ)を同定することを目的とし、その配位子である可能性が高い、D2蛋白質の117番目のヒスチジン残基(D2-H117)を、グルタミンに改変した変異体(D2-H117Q)を作成した。その変異体より調製した光化学系II蛋白質を用いて、ChlZの酸化反応におけるFTIRスペクトルを測定した。その結果、D2-H117Q変異体でクロロフィルのC=O伸縮振動の振動数に変化が見られ、D2-117Hに結合するクロロフィルがChlZとして酸化されることが示唆された。
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