研究概要 |
好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusの変異体を作成し、その光化学系II蛋白質の構造・反応を閃光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトル法によって解析した。その結果、主に以下のような結果を得た。 1.CP43蛋白質にヒスチジンタグを導入することによって得た、極めて酸素発生活性の高い光化学系II蛋白質複合体を用い、その水分解系の構造、及び反応を調べた。まず、水分解反応サイクルの各中間状態遷移(S_1→S_2,S_2→S_3,S_3→S_0,S_0→S_1)における基質水分子の反応過程を、そのOH伸縮振動バンド(3500-3650cm^<-1>)の変化として検出することに初めて成功した。また、その際のアミノ酸側鎖や蛋白質骨格の構造変化を検出し、その赤外バンドを^<13>C、^<15>N同位体置換によって同定した。さらに、反応サイクルのFTIR差スペクトルを様々なpHにおいて測定し、各遷移効率のpH依存性を調べた結果、S_1→S_2遷移以外の3つの遷移で酸性領域における著しい阻害が認められ、これらの遷移でのプロトン放出の可能性が示された。 2.D2蛋白質の160番目のチロシン残基(Y_D)をフェニルアラニンに置換した変異体(D2-Y160F)を作成し、第一電子供与体クロロフィルP680への副次的電子供与体YDの機能を調べた。D2-Y160Fの光化学系II蛋白質について、P680の光酸化によるFTIR差スペクトルを測定したところ、野生株に見られる1751cm^<-1>のカルボメトキシC=O基のバンドが低波数シフトしていることが観測された。このことから、Y_DはP680と水素結合ネットワークを介して相互作用しており、この相互作用を通じて、Y_Dの酸化状態がP680の酸化還元電位を制御していることが示唆された。
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