研究概要 |
本研究では,成長から性成熟への生理機能の転換機構を明らかにするため,サクラマスを材料としてGnRH受容体遺伝子の発現調節という点から研究を行った。近年の研究で,一つの動物種に複数のGnRH受容体が存在することが明らかになっているが,サケ科魚類ではニジマスで1種類の遺伝子しか同定されていなかった。そこでまず,サケ科魚類で何種類のGnRH受容体が存在するのかを調べることから始めた。その結果,サクラマスに五種類のGnRH受容体遺伝子サブタイプが存在し,それらは共に脳と下垂体で発現していることが明らかになった。さらに,それらのmRNAを特異的かつ高感度に測定する系をリアルタイムPCR法により確立し,サクラマスの性成熟過程における五種類のGnRH受容体サブタイプ遺伝子の発現レベルの変化を解析した。その結果,脳では五種類のサブタイプ遺伝子の発現は同様なパターンを示し,性成熟が開始される一歳魚の冬に高く,産卵期に向かって減少していった。また,メスではGnRH受容体mRNA量と血中エストラジオール濃度との間に負の相関が見られた。一方,下垂体ではサブタイプごとに発現パターンが異なり,それぞれ雌雄,性成熟のステージに応じて発現パターンが異なることが分かった。また,R1-R5の中で発現量が一番高いR4は,GnRHによってGTH遺伝子が調節される産卵期前のみに発現量が増加し,GTH産生細胞のGnRHに対する反応性を担う受容体サブタイプであることが示唆された。R4の発現誘導が成長から性成熟へと生理機能が転換するのに重要なステップである可能性が示された。五種類のGnRH受容体遺伝子が脳と下垂体のどの細胞で発現しているのかを明らかにすることが今後の重要な課題であるが,分子組織化学的な方法と共に,単一細胞レベルでの発現を解析することを試みたいと考えている。
|